#14 特定波長の紫外線を浴びると、腸内細菌叢に影響が出る?

更新日: 2022/09/05

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。

今回紹介するのは、特定波長の紫外線を浴びることで、腸内細菌叢に影響が出ることを調査した研究です。紫外線、つまり太陽の光を浴びることと、腸内環境にどんなつながりがあるのか。疑問に思う方もいるかも知れません。実は、皮膚では日光のエネルギーを用いたビタミンDの生成が行われていて、生成されたビタミンDが血流に放出されます。こうなると、あながち日光と腸内細菌も遠くない存在と思えるのでは無いでしょうか?

一見繋がりのない2つの存在を実験で引き寄せる。そんなBosmanらの研究をお楽しみ下さい。

今回の内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます!

本研究に取り組む背景

多発性硬化症(MS)や炎症性腸疾患(IBD)などの慢性炎症性疾患患者の増加は、欧米先進国において重要な社会福祉上の課題です。ほとんどの慢性炎症性疾患の正確な病因はほとんど分かっていませんが、遺伝的素因と環境因子が相互に関係して発症すると考えられています。ここで著者は、血清25-ヒドロキシビタミンDレベルの低下をもたらす日光(UVB)不足 に注目しています。ここで日光とUV:紫外線の関係をおさらいします。

太陽光は、私達の目の細胞が感受できる可視光線以外にも、紫色の光より波長の短い紫外線、赤色の光より波長の長い赤外線を含んでいます。さらに、紫外線はUV a, b, cに細分化することができます。UVはUltraViolet raysの略で、aからcにかけて波長が短くなるのが特徴です。

ここで、ビタミンDに話を戻します。ビタミンDは、7-デヒドロコレステロールの光反応により生成される必須栄養素です。光反応とは、化学反応の進行に必要なエネルギーを光エネルギーによりまかなう反応を指します。

脂溶性ビタミンであるビタミンDの存在は、腸内環境に影響を与え、腸管上皮細胞同士をつなぎとめるタイトジャンクションタンパク質、オートファジー関連因子、抗菌ペプチドをコードする遺伝子の発現を促進することにより、腸管バリアの形成に関与しています。

また、自然免疫細胞および獲得免疫細胞は、ビタミンDの影響を受け、ビタミンが炎症性反応を抑制することも知られています。マウスの実験では、ビタミンD欠乏症を患っている個体への経口補給は、その微生物組成に分類学的な影響を及ぼし、25-ヒドロキシビタミンDレベルと相関することも見出されています。

不足したビタミンDはUVBの照射により取り戻すことができ、それによって腸内細菌叢も変化する

本研究では、19歳から40歳までの健康な白人女性が研究対象として募集され、特定の肌タイプを持つ方のみが研究に参加しました。肌のタイプは、色素含量の観点から光を照射する実験においては重要な制御項目になります。

本研究は2018年2月~4月にBC州バンクーバー市で実施され、研究期間中に測定された自然由来の曝露UVB強度は顕著なものではありませんでした。

参加者は スキンケアクリニックを訪れ、下着とUVBカット保護ゴーグルを着用し、同じ週に3回の全身照射を受けました。ここで、試験前にビタミンDサプリメントを摂取していたと答えた参加者をVDS+群、摂取していなかった残りの12名をVDS-群としました。25-ヒドロキシビタミンD分析によると、VDS+群の参加者のほとんどは、ビタミンDが十分であると特徴付けられるビタミンD血清レベルを有してます。一方、VDS-群の大多数は、不足範囲で低いビタミンD血清レベルを示していました。これらの知見は、年間を通じてUVB光を利用できない地域では、冬季に十分な血清ビタミンD濃度を維持するためにビタミンDの補給が必要であることを示しています。

UVB光照射前後の血清分析では、すべての参加者でビタミンD濃度が平均7.3 nmol/L と大幅に上昇しました。VDS- グループは、VDS+ グループよりも大きな血清反応を示しました。25-ヒドロキシビタミンDの開始濃度と参加者のビタミンD血清反応との間に負の相関が計算されたことも面白いです。

続いて、腸内細菌に対する日光の影響です。UVB光の照射が腸内細菌叢に影響を与えるかどうかを検証するため、各参加者は4つの便を採取しました。タイムポイント1と2はUVB照射直前の3日間に採取し、タイムポイント3と4は最後のUVB照射後の3日間に採取しています。

結果、VDS−群についてUVB照射前の糞便マイクロバイオーム構成の多様性がVDS+群より著しく低いことが示されました。また、UVB照射後、VDS-群では腸内細菌の多様性が増加し、UVB照射後のVDS+群の多様性とほぼ同じになりました。光の介入だけで、腸内細菌叢の構造に変化が出るというのは驚くべき発見です。

続いて、UVB 照射が 4 つの異なる系統の細菌存在量に及ぼす影響を検証しました。結果、VDS-群ではFirmicutesの相対量が増加し、Bacteroidetesが有意に減少することが分かりました。さらに、VDS-群ではUVB光照射後にProteobacteriaの有意な増加が見られた一方、VDS+群ではProteobacteriaの存在量に有意な差は見られませんでした。

今回の研究から、次のことが分かりました。

  • 十分な強度のUVBを定期的に浴びることで、日光浴不足で生じる腸内細菌叢の多様性を取り戻すことができるかもしれない。

  • サプリメントの摂取により十分量のビタミンDを持っているヒトと比べると、ビタミンDが不足しているヒトについてUVBの与える影響が大きい。

日光浴は、ポカポカと気持ちく安らかな気持ちにしてくれますが、ビタミンDを補給し腸内細菌の多様性を育む、一種の腸活なのかもしれませんね。

本日の記事は以上になります。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31708890/

Bosman ES, Albert AY, Lui H, Dutz JP and Vallance BA (2019) Skin Exposure to Narrow Band Ultraviolet (UVB) Light Modulates the Human Intestinal Microbiome. Front. Microbiol. 10:2410. doi: 10.3389/fmicb.2019.02410


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