#224 宇宙飛行士の腸内細菌叢は互いに似る?ヒトと細菌が共に宇宙へ行く時代。

更新日: 2023/04/10

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毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

本日は#科学系ポッドキャストの日ということで、現在進行中の病原性集中講義をお休みして、他のポッドキャスターの皆様との共通テーマである「宇宙」についてお話します。何故宇宙なのかというと、明後日の4/12は世界宇宙飛行の日ということで、1961年の同じ日にソビエト連邦の宇宙飛行士「ユーリ・ガガーリン」が人類ではじめて宇宙へ行ったからです。

半世紀以上も前に人類が宇宙へ行ったことは驚きですよね。

室長は、人生の大きな目標として宇宙へ行くことが中学生からの夢なのですが、今回「宇宙」のテーマということでぜひお話をしたいなと思い参加しました。もちろん、宇宙兄弟は最新刊まで愛読していますし、宇宙飛行士選抜試験も(落ちましたが)受験しました。これからもチャンスをみて宇宙へ行く準備を進めていきます。

腸内細菌相談室のリスナーの皆様、もう少し聞いてください…!
今日は腸内環境や腸内細菌についてのお話では無いのかと思うかもしれませんが、そうではありませんよ!本日は、宇宙飛行士の腸内細菌叢を始めとする細菌を解析した研究例についてご紹介しようと思います。

これからの100年で、確実に人類は宇宙への進出を果たすと室長は考えています。その中で気になるのが、微小重力環境、ストレスのかかる環境、閉鎖環境にヒトが置かれたときに、ヒトマイクロバイオーム=ヒトに住む細菌の集合体はどのような変化をするのかということです。腸内細菌相談室へはじめていらっしゃる方のために、マイクロバイオームとは細菌=Microbeと全体=Omeをつなげた言葉で、細菌集団、細菌コミュニティ、細菌叢を表す言葉です。

ヒトマイクロバイオームは、ヒトの健康状態や疾患の発症・進行と密接に関係していることが、近年様々な研究より明らかとなっています。したがって、宇宙におけるマイクロバイオームやその機能の変化について知ることは、宇宙空間で人類が生活する上での重大な関心事なのです。とは言っても、まだまだ宇宙飛行士になったヒトの数は数百人程度、ISSに同時に滞在できるのは6人なので、コホート研究には程遠い現状です。

そこで、今回のエピソードでは、数少ない宇宙飛行士がISSで滞在する上で、腸内細菌叢を始めとしたマイクロバイオームがどのように変化するのか調査した研究として、scientific reportsに2019年公開の「Study of the impact of long-duration space missions at the International Space Station on the astronaut microbiome」についてお話します。後半には、ヒト細菌叢を考慮した宇宙開発についてもお話します!

本記事の音声配信は、下のプレイヤーからお楽しみいただけます!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

9名の宇宙飛行士からマイクロバイオームを取得

本研究では、ISSに6ヶ月から12ヶ月滞在した9名の宇宙飛行士の協力のもと、宇宙滞在前、宇宙滞在中、宇宙滞在後のマイクロバイオームを取得することで、微小重力環境、閉鎖環境下での生活におけるマイクロバイオームへの影響を調査しました。

これまでの宇宙飛行士を対象としたマイクロバイオーム研究では、マイクロバイオーム全体の組成や機能が変化することが報告されていましたが、いずれの細菌も培養に基づく調査でした。

本研究の独自性としては、培養を必要としない16S rRNAアンプリコンシーケンシングによる細菌叢全体の解析を行っています。解析対象も幅広く、消化管、皮膚、舌、鼻に付着するマイクロバイオームの調査を行っています。消化管のマイクロバイオーム=腸内細菌叢については、便サンプル=ウンチに含まれる16s rRNA遺伝子をコードするDNAについて解析することで調査します。便サンプルは9名の参加者の中で5名から取得されました。

調査の結果、①ISS滞在中には宇宙飛行士同士の腸内細菌叢が似ること、②消化管、鼻、皮膚のマイクロバイオームはISS滞在中に変化することなどが明らかとなりました。①の原因としては、ISSでの生活において互いに類似する食事をとることで腸内細菌叢が類似したことが考えられていますが、交絡因子としての微小重力やストレスなどは否定されていません。

このように、地球とは異なる特異な環境で生活をすることで、少なくとも地球で生活した期間とは異なる細菌叢を獲得しそうです。では、この事実を踏まえて、宇宙開発はどうあるべきなのか、腸内細菌相談室なりに考えてみました。

細菌叢視点の宇宙開発

腸内細菌相談室で提案するのは、「細菌叢の多様性を確保する」視点での宇宙開発です。細菌叢の多様性を確保することで、細菌叢のバランス不全や細菌感染症への感染リスクを減らし、疾患への罹患リスクや健康増進を目指します。

宇宙開発において細菌叢の多様性を確保する上で、腸内細菌相談室が考える具体的な方針は次のとおりです。

  • 食生活、運動を含めたより多様なライフスタイルを送れるようにする:食生活は腸内細菌叢を変動させる直接的な因子です。多様な食生活は多様な腸内細菌を栄養することに繋がります。運動と腸内細菌叢の双方向の影響も近年研究されています。

  • 抗生物質をできるだけ使わない:急性の炎症など緊急性の高い場合には話は別ですが、抗生物質の使用頻度を減らすことが重要です。抗生物質により細菌叢の多様性は一気に失われてしまいます。

  • プロバイオティクスやプレバイオティクスの利用:より直接的に腸内細菌叢へ働きかける1つの方法として、細菌や細菌の餌となる基質を摂取する方法があります。それぞれ、プロバイオティクス、プレバイオティクスと呼ばれており、細菌叢の多様性を確保する目的での服用が進んでいます。

  • 糞便の保存:ISSに滞在してから宇宙飛行士間の腸内細菌叢が似通ったように、ISSでの長期滞在は細菌叢を均質にすると考えられます。したがって、ISS滞在初期に腸内に存在した細菌を保存する意味で、糞便の保存をすることは、将来の多様性減少へ備える1つの有効な方法であると考えています。

以上の方針を実現するためには、まだまだISSを含めた有人宇宙施設では規模としても設備としても不十分です。今後、数十年の間に、細菌叢はヒトの生活により密接に関係することが解明されてくることは明白なので、宇宙開発における細菌叢の視点も重要性を増してくるのでは無いかと考えています。

ヒトと細菌が共に宇宙へ行く時代。

これからの100年は、約46億年の地球の歴史上はじめて宇宙へヒトが行く時代です。ヒトはロケットを開発し、それを乗り物として宇宙へ向かいます。

これからの100年は、約46億年の地球の歴史上はじめて宇宙へ地球の微生物が行く時代です。微生物はヒトを乗り物として宇宙へ向かいます。

ヒトにとっても微生物にとっても、はじめてのビッグイベントです。
うまく手を取り合いながら、両者が宇宙飛行を達成することで、はじめて宇宙開発は成功すると腸内細菌相談室は確信しています。

今回は、#科学系ポッドキャストの日ということで、宇宙飛行士と腸内細菌叢のお話にフォーカスしてお話しました。宇宙についてはまだまだ喋り足りないので、今後もタイミングを見てお話していきます!

腸内細菌相談室は、腸内細菌について分からないことがある、あなたのために存在します!わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、メッセージお待ちしております。論文の紹介から、基礎知識の解説まで、腸内細菌相談室を使い倒して下さい!あなたのリクエストが番組になります。

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今日も、お疲れさまでした。
次回から、また通常通り病原性集中講義を開講します。
また次回、お会いしましょう!

参考文献

Voorhies, Alexander A et al. “Study of the impact of long-duration space missions at the International Space Station on the astronaut microbiome.” Scientific reports vol. 9,1 9911. 9 Jul. 2019, doi:10.1038/s41598-019-46303-8

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