現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
今回は、新しい試みとして、細菌詳説シリーズをスタートします!細菌詳説シリーズでは、腸内環境を考える上で重要な細菌達1個体ごとに焦点を当て、紹介していく企画です。
細菌というと、皆様はどのようなイメージを抱くでしょうか?丸っこかったり、たくさんいたり、病気に関係していたり。人によって様々なイメージを持っていると思います。この企画では、腸内細菌を捉える解像度を高める、理解を深めることを目的としてお話していきます。
記念すべき第1回のテーマは、肺炎を引き起こす桿菌であるクレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae: 以下ニューモニエと略称)を取り上げます。肺炎と腸内細菌にはどのような関係があるか?疑問を抱いた方もいると思います。
実は、炎症性腸疾患とニューモニエの関連性が最新の研究では指摘されています。肺炎だけでなく、腸疾患とも関連性が指摘されているニューモニエ。ヤツへの理解を深める旅に出発して行きましょう!
今回の内容は、TwitterでYuki様から頂いた質問を元に構成しております。今回で、Yuki様から頂いた質問に対するアンサー回は最後になります。ご質問ありがとうございます!腸内細菌相談室では、現在質問募集中です!
この内容はPodcastでもお楽しみ頂けます。
https://open.spotify.com/episode/2WN7pyKaZmhBuQM8XHkJch
まず、ニューモニエはどのような細菌なのか。この点は、藤元メディカルシステム様のホームページにてまとめられているので抜粋します(参考リンク:引用詳細は文末記載)。
ここから、最初には肺炎や炎症性腸疾患などの疾患との関連を指摘しましたが、ありふれて存在する細菌であることが分かります。また、通性嫌気性細菌なので、酸素存在下でも生育可能な細菌であり、ヒトの体内について場所を選ばず生育可能です。生育可能なpHは6.0-8.0なので、胃酸以外の条件であれば生育はできることになります。胃酸のpHは1であり、強酸性です。
腸内環境のpHと腸内細菌の関係は重要です。なので、別の文献からもニューモニエと腸内のpHについて理解を深めます。
Abbasらの研究によると、やはりpH6-8でニューモニエは生育しているようです(株によって少々pHが異なりました)。その他のpHだと菌体密度の指標である吸光度が小さくなっています。
(※補足:LB培地、37℃の培養条件で培養。参考:S.Z. Abbas et al. (2014), Isolation and characterization of arsenic resistant bacteria from wastewater, Brazilian Journal of Microbiology, 45(4), 1309-1315, 10.1590/S1517-83822014000400022, Figure 3)
ニューモニエと関連する疾患について取り上げていきます。
気管支炎とニューモニエの関係は古くから研究されています。1977年のBerendtらの研究では、ニューモニエの入った溶液をラットの鼻腔内に投与することで24時間以内に気管支炎を惹起しています。また、投与から13日間は肺からニューモニエが検出されました。
参考文献:Berendt RF, Long GG, Abeles FB, Canonico PG, Elwell MR, Powanda MC. Pathogenesis of respiratory Klebsiella pneumoniae infection in rats: bacteriological and histological findings and metabolic alterations. Infect Immun. 1977 Feb;15(2):586-93.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC421407/
慶應義塾大学医学部の本田賢也先生の研究では、マウスの実験により炎症性腸疾患とニューモニエの関係を調べています。抗生物質によって腸内細菌叢のDysbiosis(細菌叢のバランス異常)にしたマウスについて、定着抵抗性が損なわれることで経口投与したニューモニエが腸管に定着していることが確認されています。
また、細菌の定着によってヘルパーT細胞の一種であるTh1細胞が顕著に増大していました。この免疫応答は、最終的にマクロファージを活性化することで殺菌効果を示します。
さらに、腸炎発症モデルマウスについてニューモニエを添加すると強い腸管の炎症が確認されました。つまり、ニューモニエの存在が炎症反応を惹起するということです。
参考文献:慶應義塾大学医学部プレスリリース:Accessed: 2022/09/13
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2017/10/20/28-24943/
菌血症とは、血流内に細菌が存在することで、血流に乗った細菌が心臓や骨、関節などで炎症を起こす疾患です。
ニューモニエはカルバペネム系抗菌薬に対する耐性菌として注視されており、この耐性菌の血流感染による死亡率は高いです。ここで取り上げる研究では、カルバペネム系抗菌薬に耐性のあるニューモニエ(RP)と感性のニューモニエ(SP)による菌血症の比較を行っています。
RPに感染した患者の死亡率はSPと比較して有意に高く、寝たきり状態や人工呼吸器の仕様、透析などがリスク因子と関係していました。
参考文献:Impact of carbapenem resistance on the outcome of patients’ hospital-acquired bacteraemia caused by Klebsiella pneumoniae, K. Hussein, A. Raz-Pasteur, R. Finkelstein, A. Neuberger, Y. Shachor-Meyouhas, I. Oren, I. Kassis *Rambam Health Care Campus, Israel Journal of Hospital Infection (2013) 83, 307-313.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23313086/
ニューモニエは、常在菌であることから腸内にニューモニエを入れないというのは難しそうです。また、腸内のpHを制御することでニューモニエの増殖を抑制するというのも難しそうです。なぜならニューモニエは、比較的広いpH範囲(6.0-8.0)で堅調な増殖が可能だからです。
したがって、腸内に入ったニューモニエを定着させないというのが有効な手段になると考えます。つまり、腸内環境の定着抵抗性を損なわせないために、①不用意な抗生物質投与とそれによるDysbiosisを回避する、②規則正しい食生活を心がけ、偏った腸内細菌叢を回避する、などが手段として考えられます。
つまり、ニューモニエの腸内感染を防ぐための特効薬は無く、習慣によって改善、回避するというのが現在の私の意見です。
細菌特異的に作用する薬剤や、特定の細菌を攻撃する細菌についての理解が進むことで、新しい療法が生まれてくることが、今後期待されます。
わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、TwitterやInstagram、Noteコメント欄にてメッセージお待ちしております。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
藤元メディカルシステムHP、先端医療講座、Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌), Accessed: 2022/09/13
http://www.fujimoto.or.jp/tip-medicine/lecture-132/index.php