#177 炎症性腸疾患の発症要因について。

更新日: 2023/02/22

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、炎症性腸疾患の発症要因について、現時点で分かっていることについてまとめていきます。そもそも、炎症性腸疾患は、腸管における慢性的な炎症や潰瘍を生じる疾患であり、原因は明らかになっていません。炎症性腸疾患の原因解明は、現在も研究が進められているところです。そして、炎症性腸疾患の発症要因として現在研究が盛んに行われているのが、腸内細菌の分野なのです。

早速、炎症性腸疾患の要因について見ていきましょう!

番組は、下のプレイヤーからお楽しみいただけます!

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原因不明の疾患。観察結果が示すものとは。

何度も繰り返しますが、現時点で炎症性腸疾患の原因は不明です。しかし、炎症性腸疾患についての観察研究が進む中で、分かって来ることがあります。例えば、炎症性腸疾患患者と健康な方の間でのゲノム比較、生活習慣の比較を通して見えてくるものがあります。

例えば、潰瘍性大腸炎の発症には、何らかの遺伝的要因が関与していると考えられていて、遺伝子の探索が現在行われています1)。しかし、発病に関連する遺伝子型を持っていても、必ずしも発症には至らないことが分かっています。つまり、遺伝的要因に加えて、環境要因も関与することが考えられているのです。炎症性腸疾患のリスクファクターとなる環境要因については、様々な論文にまとめられています。

炎症性腸疾患のリスクファクターとなる環境要因

今回ご紹介するのは、Gastroenterology and Hepatologyの"Environmental Risk Factors for Inflammatory Bowel Disease"です。

本論文では、潰瘍性大腸炎とクローン病に分けて、リスクファクターをまとめています2)。潰瘍性大腸炎については、食べ物から摂取される不飽和脂肪酸のアラキドン酸やリノレン酸、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、精神的なストレスやうつ病、ホルモン補充療法などが考えられています。一方、n-3系脂肪酸、喫煙、虫垂切除はリスクを下げると報告されています。

クローン病については、リスクファクターとして喫煙、虫垂切除、動物性タンパク質、非ステロイド性抗炎症薬の服用、精神的なストレスやうつ病、経口避妊薬の服用が列挙されており、食物繊維やビタミンDはリスクを下げると報告されています。

ここに述べられているリスクファクターやリスク低減ファクターはいずれも腸内細菌と関連しています。ここからは室長の私見ですが、環境要因がヒト、そしてヒト腸内細菌と相互作用をすることで、腸内環境が変化することが、炎症性腸疾患の発症の一因を担っていると考えています。

ここまでに、原因は不明だが発症要因の探索が進む炎症性腸疾患についてお話してきました。次回は、炎症性腸疾患が大腸がんにつながる過程について、考えていきます。

以上、炎症性腸疾患の発症要因についてお届けしました!

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1) 難病情報センター, 潰瘍性大腸炎(指定難病 97), Access: 20230220, URL: https://www.nanbyou.or.jp/entry/62

https://www.nanbyou.or.jp/entry/62

2) Ananthakrishnan AN. Environmental risk factors for inflammatory bowel disease. Gastroenterol Hepatol (N Y). 2013 Jun;9(6):367-74. PMID: 23935543; PMCID: PMC3736793.

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