#34 ヌクレアタム菌が炎症性の腸内微小環境を形成する。

更新日: 2022/09/25

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日は、歯周炎や大腸がん関連細菌として知られるFusobacterium nucleatum(フソバクテリウム ヌクレアタム:以下ヌクレアタム菌)と、免疫応答の関係を調べた研究をご紹介します。

観察結果として、大腸がん患者の集団にてよく検出されるヌクレアタム菌は、実際にどのようなメカニズムによって腸内環境に影響を与えているのか。炎症反応の観点から切り込んでいくのが本研究の趣旨です。

この内容は、Podcastでもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/3XBkevd6ugH9mtDxpPT6qB

大腸がんと関連する細菌とその作用

大腸がんと関連する細菌はヌクレアタム菌、Enterotoxigenic Bacteroides fragilis(ETBF)、遺伝毒素としてのコリバクチン産生大腸菌などが考えられています。遺伝毒素とは、細胞内のDNAの構造を損傷するような物質を指していて、突然変異を誘発します。

特に、ヌクレアタム菌が産生する遺伝毒素は確認されておらず、ヌクレアタム菌が細胞表面に有する膜タンパクによって免疫応答を変化させることが報告されています。しかし、ヌクレアタム菌が放出する代謝産物と免疫調節については、未解明な点が多いです。

実際、ヌクレアタム菌にさらされるとインターロイキンと呼ばれる免疫細胞間のコミュニケーションを司る物質、腫瘍の壊死に関連する物質などが多く発現します。つまり、ヌクレアタム菌にさらされることで、免疫応答が活発化するのです。

しかし、ヌクレアタム菌に関するマウス研究は、短期間の曝露、複数回の接種、抗生物質投与を伴うことが多いです。つまり、マウスの腸管に対してヌクレアタム菌が安定的に定着することは難しいということです。しかし、大腸がんのステージが進行するに従ってヌクレアタム菌の存在量が増えることが確認されていることから、実際にはヌクレアタム菌が腸内の腫瘍形成以前から定着していると考えられるのです。

本研究では、ヌクレアタム菌が多く産生する短鎖脂肪酸に着目して、炎症や腫瘍形成との関係を調査していきます。

腸管に定着する以前のヌクレアタム菌がIL17の発現を促進

はじめに、がん抑制遺伝子に対して変異の入ったマウス(APCMin/+マウス)にヌクレアタム菌を摂取します。すると、大腸腺腫の増殖が増加し、腫瘍形成前にIL17aの発現が促進されていることが分かりました。

IL17は炎症促進性のサイトカインで、線維芽細胞や上皮細胞、マクロファージなどの広範囲に渡る細胞に作用することで知られています。サイトカインとは、免疫細胞から分泌されるタンパク質で、免疫応答や腫瘍壊死などの制御などを行います。

ここでは、腫瘍の形成のみならず、腫瘍性が進行した病変が見られたということです。つまり、ヌクレアタム菌は腫瘍の形成と進行に関連していることが示唆されました。

また、糞便中にはヌクレアタム菌が検出されるも、腫瘍組織自体には検出されない場合が多いことが確認されました。これは、ヌクレアタム菌が定着する以前に、IL17の産生を促進することで、腸内の免疫系に影響を与えることが示唆されました。

ヌクレアタム菌が定着したノトバイオートマウスと炎症

ノトバイオートマウスとは、特定の細菌叢のみが定着したマウスです。細菌単体の与える影響性の考察が難しくなる一方で、ヒト腸内により近い系における実験ができるという利点があります。

ここでは、改変シェードラー細菌叢と呼ばれる乳酸菌やバクテロイデスなどの細菌カクテルを定着させたノトバイオートマウスを使用します。

実験の結果から、ヌクレアタム菌が腸内に定着していることが確認されました。 また、ヌクレアタム菌が腸管に定着したことによる細菌叢への影響を調べた結果、細菌組成に対する影響は統計的にないことが分かりました。

また、マウスが炎症を起こしているか調査したところ、ヌクレアタム菌が定着しても大腸炎がないことが確認されました。では、ノトバイオートマウスにどのような変化が起こったのでしょうか?

それは、ApcMin+/マウスのときと同様に、IL17の発現が増加していたことにあります。また、発現が増加していたのは、腸管上皮ではなく粘膜固有層でした。

また、粘膜固有層に存在する免疫細胞を調べていくとTh17細胞が増えていることが示されました。ヘルパーT細胞は、異物に対応して他の免疫細胞のはたらきを調節する役目の免疫細胞です。特に、Th17は炎症性サイトカインであるIL17やIL21、TNF-αなどを産生して炎症を誘導する役目があります。

つまり、インターロイキンの増産に対応して免疫細胞の増加も確認されたのです。

ヌクレアタム菌はどのようにして免疫細胞に影響を与えているか

しかし、疑問が残ります。ヌクレアタム菌が定着することで、ヘルパーT細胞やそこから産生されるIL17がどのように影響を受けるのか、という疑問です。

ここで著者らは、ヌクレアタム菌の産生する短鎖脂肪酸に着目しています。ヌクレアタム菌は短鎖脂肪酸を大量に生産することが知られており、短鎖脂肪酸は制御性T細胞などの免疫細胞と関係することが知られているため、調査していきます。

ここでは、ヌクレアタム菌の定着によって、短鎖脂肪酸の中でも酢酸と酪酸が食道にて増加することが確認されました。

さらに、Th17細胞の分化前の細胞であるCD4+T細胞に存在する酢酸とプロピオン酸の受容体であるFFAR2について欠損させたところ、細胞の誘導が阻害されたことが確認されました。

つまり、ヌクレアタム菌の産生する短鎖脂肪酸が免疫細胞の分化に影響を与え、Th17細胞および炎症性サイトカインのIL17が増加することが示唆されたのです。

短鎖脂肪酸は、制御性免疫に関係する、炎症抑制性の機能が着目されがちです。しかし、今回の研究では短鎖脂肪酸が炎症作用に加担しているエビデンスを提供しています。

ヌクレアタム菌と炎症応答については今後も研究が必要です。ヌクレアタム菌は口腔常在菌であり、今回お話したシナリオはどのヒトでも起こる可能性があるからです。

以上、ヌクレアタム菌が炎症性の腸内微小環境を形成するお話でした。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34781821/

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/19490976.2021.1987780

Caitlin A. Brennan, Slater L. Clay, Sydney L. Lavoie, Sena Bae, Jessica K. Lang, Diogo Fonseca-Pereira, Kathryn G. Rosinski, Nora Ou, Jonathan N. Glickman & Wendy S. Garrett (2021) Fusobacterium nucleatum drives a pro-inflammatory intestinal microenvironment through metabolite receptor-dependent modulation of IL-17 expression, Gut Microbes, 13:1, DOI: 10.1080/19490976.2021.1987780

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