#3 睡眠があたえる、腸内細菌への影響。腸管透過、肥満など。

更新日: 2022/08/25

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こんばんは。腸内細菌相談室の鈴木大輔です。
本日は、腸内環境と睡眠の密接な関係について、慶應義塾大学医学部のレビューを元にお話します。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/31/3/31_143/_article/-char/ja/

入江 潤一郎, 伊藤 裕, 睡眠と腸内細菌叢, 腸内細菌学雑誌, 2017, 31(3), 143-150.

今回は、前回の続編です。前回のお話を基礎に、睡眠と腸内環境、腸内細菌の関係を深堀りします。最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。

この内容は、Podcastによる音声でもお楽しみ頂けます。

https://open.spotify.com/episode/5a2y75Muop5Ev05ovzMHX1

こちらからご視聴頂けます。

概日リズムの乱れが引き起こす、腸内環境への影響

前回は、概日リズムが消化器官にも存在することをお話して終えました。では、具体的には何が変化するのかということについて深堀りします。変化するのは大きく2点です。

  • 腸管上皮の増殖:粘膜固有層では無い

  • 腸管透過性:グルコースなどの糖吸収(暗期)、ペプチド吸収(明期)、脂質吸収(暗期)

このように、腸内環境は物質の取り込みや細胞分裂の観点から、概日リズムと大きく関係があります。そして、概日リズムと睡眠習慣は密接に関係しているので、睡眠が腸内環境にとって重要な役割を果たすのです。

以降、睡眠と腸内細菌の関係に迫ります。

睡眠と腸内細菌の関係

ここでは、マウスとヒトの研究結果に分けて説明します。

マウスの実験結果

まずは、観察を行います。つまり、1日の活動時間と腸内細菌の関係を調査します。観察の結果、次のような報告がなされました。

  • 種レベル: Lactobacillus reuteri↓(暗期)、Dehalobacterium↑(暗期)

  • 機能レベル:DNA修復・細胞増殖・ムチン分解↑(暗期)、運動・センシング↑(明期)

(報告により様々な結果が得られており、一貫した理解は得られていないが変動はしていることが分かっています)

続いて、時計遺伝子を欠損させたマウスの腸内細菌の変動を調査しました。結果、腸内細菌の機能の変動が確認されませんでした。ただし、一部の時計遺伝子については、食事を定められた時間に当たることで、腸内細菌の機能の変動が確認されました。

最後に、睡眠障害マウスについての実験です。睡眠障害マウスの腸内環境を調べた結果、特定の細菌の組成が増加・減少している他、腸管透過性が亢進し,血中 LPS 濃度が増加することも報告されました。

LPSとは、リポ多糖という脂肪と糖が結合した、細菌由来の分子で、炎症や毒性の発現に関係しています。

腸内細菌は、善玉、悪玉、日和見菌という分類が便宜上なされますが、基本的には異物・自分以外の物質であり生物です。ヒトは、自己に対しての非自己を認識して、体を防御するために免疫機能を発達させています。

LPSも非自己であるため、炎症に関係するのです。そして、慢性的な炎症状態は、身体的なダメージを与えます。腸管は非自己を体内に入れないで、有用な成分だけを取り込む、”フィルター”の役割を果たします。睡眠障害によってフィルターが壊れてしまい、さらなるダメージが広がっていくのです。

ヒトの実験結果

哺乳類という意味でヒトとマウスは同じですが、それでも大きく異る生物です。ヒトについても、睡眠と腸内細菌の関係が観察されています。結果、特定の細菌(属)の存在量が概日リズムと共に変化することが報告されています。

また、ヒトへの自然な介入として、長時間のフライトがあります。時差ボケによって、腸内細菌が変化するのか調査した結果、やはり特定の細菌の存在量が変化するのです。

さらに面白いのが、時差ボケのヒトの糞便を無菌マウス(=お腹の中に腸内細菌がいないマウス)に投与すると、通常時のヒトの糞便を投与した群と比較して、体脂肪蓄積の促進などの変化が確認されたそうです。

睡眠障害と聞くと、不眠症などが真っ先に思い浮かびますが、無呼吸症候群も含まれます。一時的に舌が気道を塞ぐことで、体内は低酸素状態になります。これによっても、やはり腸内細菌を変化させ、腸管のバリヤ機能を悪化させることが確認されています。

睡眠→腸内環境から腸内環境→睡眠へ

ここまでは、睡眠・概日リズムが与える腸内環境への影響をお話してきました。ここからは、腸内環境が与える睡眠への影響についてです。

現在、プレバイオティクスやプロバイオティクスによる睡眠障害の改善への試みが進んでします。

プロバイオティクスの例では、乳酸菌のマウスへの連続投与が、身体活動度が増加し、覚醒時間の延長が得られたそうです。

プレバイオティクスの例では、ラクトフェリンという母乳に含まれる成分を投与すると、マウスの腸内細菌の多様性が増加し、ストレスに対する睡眠の質の低下が防止可能だとしています。

現在、この点について研究が進んでいます。

睡眠と腸内環境は密接な関係がある

今回は、①睡眠が与える腸内環境への影響、②腸内環境の変化が与える睡眠への影響についてお話しました。

一般的な理解として、概日リズムの乱れに伴う睡眠障害は、腸管に悪影響であり、炎症の惹起や肥満を引き起こすことに繋がることが示唆されています。

腸活というと、手軽に摂取できる乳酸菌飲料などが注目されがちですが、睡眠習慣の改善も重要であることが分かりました。

現在、Twitter、Instagramにて、①腸内細菌、②腸内環境、③腸活に関する質問を募集しています!沢山の質問、待っています。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。



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