毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今週は一貫して、腸内細菌に関連するニュースを取り上げてお話してきました!腸内細菌を保存する試みから、企業とアスリートの腸内細菌を介したアンバサダー契約まで、新しい時代に向けたトピックが日々報告されています。今週お話したエピソードのまとめとして、6回分の放送内容を1つに紡いでお話してみました!ぜひ最後までお付き合いください!エピソードの最後には、来週のエピソードの予告もあります。
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まずは、ヒトと腸内細菌の物質循環からお話をスタートします。ヒトの腸内には、地球上で最も高密度に生物が存在することで知られています。全宇宙を見渡しても、生物密度の観点から特殊なのが腸内環境です。
腸内環境に跋扈する、高密度な腸内細菌のコミュニティーは、どのようにして維持されているのでしょうか?それは、大腸という特殊な環境がそうさせます。
つまり、大腸には水分と栄養が豊富であり、酸素がほとんど存在しない点にあります。特に、嫌気性細菌にとっては理想的な生育環境であることから、高密度に細菌が生育できます。
細菌の生育に特に重要なのは多種多様で十分な栄養素です。多様な細菌はそれぞれ必要とする栄養にも幅があること、十分量が必要です。そこで、食物繊維を含めた様々な栄養素をバランス良く摂取することが腸活にも重要になるわけです。
そしてもう一つ、あまり考えられていない腸内細菌の餌もあります。それは、私達自身です。より正確には、私達が分泌するムチンです。ムチンは、腸管上皮細胞から分泌される糖タンパク質で、粘液の粘性に重要な役割を果たします。また、腸内細菌の炭素元としても、現在注目されて研究が進んでいます。その一例として、2023年3月2日に京都大学の研究チームらが発表した、硫酸化されたムチンをBidifobacterium bifidum菌の酵素が認識して分解するという研究報告です1)。
このように、ヒトの生活習慣のみならず、ヒトの代謝は腸内細菌にとっても重要なのです。
ヒト腸内細菌が、人体へ与える影響については様々な研究が進んでいます。例えば、腸内細菌が分泌する細胞外小胞と呼ばれる物質が、肝硬変を進展させるかもしれません。
細胞外小胞とは、細胞から分泌される膜構造をもった物質の一種で、中には腸内細菌に由来する様々な物質を含んでいます。新潟大学の研究チームらは、大腸菌が分泌する細胞外小胞が、肝臓の炎症を亢進するとともに、肝臓の線維化とそれに伴う肝硬変の進展を促進するとのことでした2)。実際に、肝硬変の進行に伴って、ヒトの血清や腹水からも抗原、細胞外小胞が確認されています2)。
また、ヒトの臓器のみならず、精神的な側面にも腸内細菌叢は影響を与えていることが考えられています。モデル生物であるゼブラフィッシュの水槽に、Paraburkholderia sabiae菌を投与した三重大学の研究では、菌の投与によってゼブラフィッシュの腸内細菌叢が変化すること、ゼブラフィッシュの不安行動が抑制されること、脳内におけるタウリン濃度が増加していることが示されました3)。タウリンは不安行動を抑制する物質として知られていることから、腸内細菌を介した物質の調整が、精神性にも影響を与える脳腸相関軸について新しい側面を発見したといえる研究成果です3)。
このように、ヒト腸内細菌叢の与える人体への影響は非常に大きいことから、腸内細菌叢をモニタリングすることは一部のヒトにとって大きな関心ごととなっています。例えば、アスリートです。
近年、運動パフォーマンスと腸内細菌叢の関係が研究されており、運動によって腸内細菌叢が変化するだけではなく、腸内細菌叢の与える運動パフォーマンスへの影響についても研究が進んでいます。アスリートの活動と腸内細菌叢のモニタリングは、科学的な根拠に基づいた運動管理として、先端的でありながら今後重要になってくる視点であると室長は考えています。
腸内細菌叢の検査サービスを手掛ける株式会社マイキンソーは、2023/3/9にウルトラトレイルランナーの宮崎喜美乃選手とアンバサダー契約を締結しました4) 。このように、研究サイドとアスリートの協力関係が、トレイルランに限らず、幅広いスポーツでも構築されることを期待しています。
腸内細菌叢のモニタリングだけでなく、腸内細菌叢のアップデートも重要な関心の的です。腸内細菌叢と体質は密接に関係することから、腸内細菌叢を変化させることで体質を変化させることに注目が集まっています。その一例が、プレバイオティクスやプロバイオティクスによる腸内細菌叢の変化です。最新の研究の一例として、2023年1月9日にNature cardiovascular researchにて公開された研究では、食物繊維の腸内細菌叢による代謝と短鎖脂肪酸が血圧へ与える影響に着目して、アセチル化およびブチル化高アミロースコーンスターチをプレバイオティクスとして投与することで、血圧の低減効果が確認されていました5)。
腸内細菌叢を操ることが、新しい医療行為につながる日は近いです。
最後に紹介するのは、Microbiota Vault projectです。このプロジェクトは、非営利団体であるMicrobiota Vault Inc.が推進している細菌叢の多様性を保護することを目的とした、便サンプルの凍結保存プロジェクトです6)。
文化の西洋化に伴う食生活の変化や生活スタイルの変化から、古来から育まれてきた腸内細菌叢と人間の関係が破壊されています。これに伴い細菌叢の多様性が減少することに問題意識を向けたのがこのプロジェクトです。
ヒト腸内細菌叢には、膨大な遺伝子機能が含まれています。このプロジェクトは、今後多くの研究機関と協力して、細菌叢のサンプリングを行っていきます。細菌叢の保管庫は、細菌叢の保全だけではなく、研究用途や未曾有の危機に備えています。
このように、腸内細菌は今後10年の人類の関心事に、大きな存在感を示しています。これからも、腸内細菌の研究動向に取り残されないよう、最新の情報を読者やリスナーの皆さんにお届けしていきます!
最後に、来週のエピソードテーマを発表します。来週は、便秘と腸内細菌叢についてです。腸活の関心事として便秘がありますが、便秘とはどのような状態なのか、腸内細菌を介して便秘を直すことができるのかお話していきます!
以上、最新の研究で分かってきたヒトと腸内細菌の新たな関係についてお話しました。
腸内細菌相談室は、腸内細菌について分からないことがある、あなたのために存在します!わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、メッセージお待ちしております。論文の紹介から、基礎知識の解説まで、腸内細菌相談室を使い倒して下さい!あなたのリクエストが番組になります。
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本日も一日、お疲れさまでした。
1) Katoh, Toshihiko et al. “A bacterial sulfoglycosidase highlights mucin O-glycan breakdown in the gut ecosystem.” Nature chemical biology, 10.1038/s41589-023-01272-y. 2 Mar. 2023, doi:10.1038/s41589-023-01272-y
2) Natsui, Kazuki et al. “Escherichia coli-derived outer-membrane vesicles induce immune activation and progression of cirrhosis in mice and humans.” Liver international : official journal of the International Association for the Study of the Liver, 10.1111/liv.15539. 8 Feb. 2023, doi:10.1111/liv.15539
3) Ichikawa, Shunsuke et al. “Paraburkholderia sabiae administration alters zebrafish anxiety-like behavior via gut microbial taurine metabolism.” Frontiers in microbiology vol. 14 1079187. 16 Feb. 2023, doi:10.3389/fmicb.2023.1079187
4) サイキンソー初となるアンバサダー契約を、ウルトラトレイルランナー 宮﨑 喜美乃 選手と締結, PR TIMES, Access: 20230312.
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000052.000015042.html
5) Jama, H.A., Rhys-Jones, D., Nakai, M. et al. Prebiotic intervention with HAMSAB in untreated essential hypertensive patients assessed in a phase II randomized trial. Nat Cardiovasc Res 2, 35–43 (2023). https://doi.org/10.1038/s44161-022-00197-4
6) 「人間の大便」を永久保存せよ:多様な腸内細菌を残す“微生物版ノアの箱舟”が目指していること, WIRED 2023.02.27, ACCESS: 20230306, URL: