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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、今週のテーマのメイントピックであるコリバクチンに関するお話をしていきます。コリバクチンは、大腸菌が産生する遺伝毒性物質として知られており、存在自体は2006年から示唆されていたものの、構造が明らかになったのは2021年と比較的最近の出来事です。現在、大腸がんの原因物質の候補として数えられるコリバクチンについて、ゆっくりお話していきます!
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
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まずは、前回の復習から。
遺伝毒性物質とは、生物のDNA配列や染色体の量、構造を変化させるような物質を指します。遺伝毒性によって、本来の遺伝情報が損なわれることで、がんを発症したり、変異が次世代の子供に引き継がれる場合があります。必ずしも重大な影響を与えはしない遺伝毒性ですが、がんが近年の日本の医療課題であることを考えると、遺伝毒性について考えることはやはり重要です。
今週のテーマであるコリバクチンは、遺伝毒性物質の中でも、遺伝子損傷性毒素として知られており、2006年にフランスとドイツの研究グループから大腸菌によって発見されました※1。この研究では、HeLa細胞と呼ばれる真核細胞にE. coliを接触させることで、DNAの二本鎖が切断されることを解明しています※1。E. coliに由来することからColi-bactinと名付けられています。
コリバクチンは、非リボソームペプチドと呼ばれる特殊な物質です。通常のペプチド=アミノ酸の重合体であればリボソームによるmRNAからの翻訳を経て産生されます。一方、コリバクチンに対応するmRNAは存在せず、代わりにポリケチド合成酵素と呼ばれる酵素によって産生されるのが特徴です。ポリケチド合成酵素をコードするのは、pksアイランドと呼ばれるゲノム領域で、20近くの遺伝子が記されています※2。
このように、DNAを損傷する主体であるコリバクチンと、コリバクチンの合成酵素は明らかとなっていたものの、近年までコリバクチンの構造は定まっていませんでした。
2021年、静岡県立大学の薬学部、渡辺賢二教授らの研究グループは、コリバクチンの構造決定を成功させます。日本からコリバクチンの構造決定が成功したのは、誇らしいです。
というのも、コリバクチン自体は非常に微量であり、かつ反応性が高いことから構造決定が難しいとされておりました。渡辺教授らの研究では、大腸がんの腫瘍臨床検体から大腸菌を単離培養した上で、LC-HRMSとNMRを併用したコリバクチンと分解物の構造解析を行うことで、コリバクチンの構造決定を成功させています※3。
コリバクチンの構造中には、シクロプロパンと呼ばれる反応性の高い部位が存在しており、シクロプロパンによるDNAへの共有結合生成がDNAへの構造変化を促すことが考えられています※2。
このように、最近になって理解の深まってきたコリバクチンですが、実はE. coli以外の腸内細菌についても産生能力があることが分かってきました。
次回は、コリバクチンを産生する腸内細菌にスポットライトを当ててお話をしていきます!以上、腸内細菌が産生する遺伝毒性物質コリバクチンの作用と構造についてお話しました!
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本日も一日、お疲れさまでした。
※1:
Nougayrède JP, Homburg S, Taieb F, Boury M, Brzuszkiewicz E, Gottschalk G, Buchrieser C, Hacker J, Dobrindt U, Oswald E. Escherichia coli induces DNA double-strand breaks in eukaryotic cells. Science. 2006 Aug 11;313(5788):848-51. doi: 10.1126/science.1127059. PMID: 16902142.
※2 川西優喜,若林敬二,渡辺賢二, 腸内細菌叢とがん発生の分子メカニズム, 実験医学 特集 環境因子と発がん, 38(11).
https://sweb.u-shizuoka-ken.ac.jp/~kenji55-lab/media/20200713-093459-361.pdf
※3
Zhou T, Hirayama Y, Tsunematsu Y, Suzuki N, Tanaka S, Uchiyama N, Goda Y, Yoshikawa Y, Iwashita Y, Sato M, Miyoshi N, Mutoh M, Ishikawa H, Sugimura H, Wakabayashi K, Watanabe K. Isolation of New Colibactin Metabolites from Wild-Type Escherichia coli and In Situ Trapping of a Mature Colibactin Derivative. J Am Chem Soc. 2021 Apr 14;143(14):5526-5533. doi: 10.1021/jacs.1c01495. Epub 2021 Mar 31. PMID: 33787233.