現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
今回は、乳糖不耐症と腸内細菌がテーマです。乳糖不耐症とは、牛乳などに含まれるラクトースと呼ばれる糖の分解ができないことで、下痢や腹部のけいれんを生じる病気です。ラクトースは日本語で乳糖なので、乳糖不耐症という名前となっています。
乳糖不耐症は民族、年齢によるところが大きく、これらの個人差を生み出す要因は何なのか、今回と次回で迫っていきます。
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MSDマニュアルによると、民族、年齢によって乳糖不耐症の有無や程度は異なるそうです。
ラクターゼとは、ラクトースつまり乳糖を分解する酵素の名前です。アーゼ、という接尾辞、単語の末尾につく言葉は、酵素の名前であることを示します。例えば、唾液に含まれるアミラーゼ、脂肪の分解に関係するリパーゼなども酵素です。
赤ちゃんは、母乳を飲まなければ生きることができないので、乳児では多く持っているのかもしれません。また、北西欧系の方を除いた世界の多くのヒトは、乳糖不耐症であるということです。
そもそも、最新の研究では4000年以前は、人類はすべて乳糖不耐症だったようです。人類は、4000年前から2000年をかけて、乳糖を分解できる能力を獲得してきました。乳糖分解能力の獲得の原因は、飢饉と下痢を伴う感染症であり、この選択圧によって、乳糖を分解する人が生き残ったとしています(この研究はBristol大学によるもので、原著論文と解説記事を参考文献に提示しておきます)。Bristol大学のこの研究でも、腸内細菌の存在に触れています。
ここでは、成人における乳糖不耐症の起こる仕組みを示したレビュー論文を参考にします。(参考文献は文末に記載)
乳糖を分解するラクターゼが無いと、乳糖が腸管内に存在することになります。乳糖が存在すると、浸透圧負荷が増大します。浸透圧とは、異なる濃度の溶液が、半透膜を介して接した時に起こる圧力です。お風呂に長時間はいると肌がふやけたり、ナメクジに塩をかけると縮むのも浸透圧によるものです。基本的に、濃度が高い方へ低い方から水分は移動するので、分解されない乳糖が腸管内に多く存在すると、腸内水分量が増加するのです。
また、腸内細菌叢によって乳糖の発酵が進み、短鎖脂肪酸とガス(主に水素(H2)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4))が発生します。別の研究では、乳糖に似た二糖類のフルクトースを用いた実験を行い、小腸の水分を増加させ、大腸通過時間を加速させ、呼気の水素発生を急激に増加させることがわかっていますが、吸収のよいグルコース30gは影響を与えませんでした。
このように、腸内に分解されない乳糖が多く存在することで、腸管内が異常な状態になるのです。乳糖不耐症についての理解が深まったところで、次回は乳糖不耐症と腸内細菌叢の関係に迫ります。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
https://www.nature.com/articles/s41586-022-05010-7
Evershed, R.P., Davey Smith, G., Roffet-Salque, M. et al. Dairying, diseases and the evolution of lactase persistence in Europe. Nature 608, 336–345 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-05010-7
この研究は、次の記事で解説されています。
https://nazology.net/archives/112687
Accessed: 2022/08/28
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26393648/
Deng Y, Misselwitz B, Dai N, Fox M. Lactose Intolerance in Adults: Biological Mechanism and Dietary Management. Nutrients. 2015 Sep 18;7(9):8020-35. doi: 10.3390/nu7095380. PMID: 26393648; PMCID: PMC4586575.