#130 大腸がん関連細菌のFusobacterium nucleatum。どのように腸管上皮細胞と関わっているか?

更新日: 2023/01/06

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今回のエピソードでは、前回に引き続き大腸がん関連細菌としてのF. nucleatum(以下ヌクレアタム菌)に注目します。前回のエピソードでは、ヌクレアタム菌が大腸がん組織にて、正常な組織と比較して多く検出されることや、ポリープ形成モデルマウスに対してヌクレアタム菌を投与すると大腸ポリープの形成が増加する研究をご紹介してきました。今回のエピソードでは、具体的にヌクレアタム菌が腸内環境とどのように影響を与えあっているのかについてお話をしていきます!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

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接着タンパク質を持つヌクレアタム菌

前回の復習をすると、ヌクレアタム菌は口腔常在菌として知られており、口内環境には普通に存在する細菌です。また、ヌクレアタム菌は歯周炎にも関連するとされています。

ヌクレアタム菌には接着性があり、バイオフィルムと呼ばれる特殊な細菌叢環境を形成することで、病原性細菌が高密度に生息して口腔環境には悪影響を与えるとされています。

ここまでは、口腔環境におけるヌクレアタム菌についてです。

では、ヌクレアタム菌はどのようにして大腸がんの関係するのでしょうか。ヌクレアタム菌は、腸管上皮細胞と呼ばれる粘膜と相互作用をすることが、先行研究により明らかとなっております。

具体的には、ヌクレアタム菌が細胞表面に有するFadAと呼ばれる接着タンパク質が重要であることがわかっています。Rubinsteinらの研究ではヌクレアタム菌が有するFadAと呼ばれる接着タンパク質を介して、がん化した腸管上皮細胞へ接着、侵入することを明らかにしています1)。つまり、ヌクレアタム菌は私達の腸を構成する細胞内に潜り込んでいくのです。

さらに、ヌクレアタム菌の有するFadAが腸管上皮細胞の接着分子となるE-cadherinに結合することでβカテニンシグナルが活性化され、大腸がん細胞の増殖や炎症反応を惹起することが示唆されています1)。

E-cadherinとは上皮細胞間をつなぎとめる分子であり、カルシウム依存性であることからcalcium、接着に関連することからadherence、合わせてカドヘリンです2)。

他にも、ヌクレアタム菌の有する膜タンパク質Fap2が、T細胞の免疫チェックポイント受容体に結合することで、T細胞の抗腫瘍免疫機能を抑制することが示唆されています3)。これは、ヌクレアタム菌が存在することで、がん免疫機能が鈍化することを示唆しているのです!Fap2も接着タンパク質であり、やはり腸管やT細胞と相互作用をします。

このように、ヌクレアタム菌は自身のもつ膜タンパク質を使うことによって、腸内環境との相互作用をしています。ヌクレアタム菌が大腸がんの決定的な原因ではないにしろ、大腸がんに関係することがご理解いただけたのでは無いかと思います!

次回は、ヌクレアタム菌以外の大腸がんに関連するとされる腸内細菌についてお話していきます!以上、大腸がん関連細菌のヌクレアタム菌が、どのように腸管上皮細胞と関わっているかというお話でした。

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

  1. Rubinstein MR, Wang X, Liu W, Hao Y, Cai G, Han YW., Fusobacterium nucleatum promotes colorectal carcinogenesis by modulating E-cadherin/β-catenin signaling via its FadA adhesin. Cell Host Microbe., 14(2), 195-206 (2013).

  2. カドヘリン発見物語, 竹市研究室, Access: 2023/01/05, URL: http://www.cdb.riken.jp/ctp/cadherin.html

  3. Gur C et al., Binding of the Fap2 protein of Fusobacterium nucleatum to human inhibitory receptor TIGIT protects tumors from immune cell attack. Immunity, 42(2), 344-355 (2015). 

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