現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
腸内環境における免疫系に焦点を当てた本シリーズ。前回までに、免疫系に関する基礎知識を、樹状細胞とT細胞に特化してお話してきました。今回は、本シリーズの最終回ということで、腸内の疾患と樹状細胞の関係に迫ります。
この内容は、Podcastでもお楽しみ頂けます。
過敏性腸症候群は、腸管の生理機能や組織に異変が無いにも関わらず、腹痛や膨張感、下痢や便秘を伴う症候群です。過敏性腸症候群には、腸管運動性に関連するホルモンである副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、その作用による副腎皮質刺激ホルモンの放出とそれによるストレス機能への影響が関係するとされています。
樹状細胞は、これらのホルモンの産生にも寄与することが知られています。小井戸らの研究では、ヒト末梢血から分離した単球から樹状細胞を誘導し、樹状細胞に病原性細菌を曝露することで、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌量増大が確認されています。
ここから、腸内細菌叢が樹状細胞に影響を与え、樹状細胞がホルモンを分泌し、腸管機能に影響を与えることが示唆されました。つまり、過敏性腸症候群に対して、樹状細胞が影響を与えているかもしれないということです。
前回までに、樹状細胞が免疫応答や免疫寛容に関連することをお話してきました。免疫応答として代表的なのが炎症です。炎症では、発赤、熱感、腫脹、疼痛が症状としてあり、これらの働きから免疫細胞を患部に集めるような仕組みになっています。
免疫応答の惹起に重要な樹状細胞。炎症性腸疾患にも何らかの影響を与えていてもおかしくないでしょう。
小井戸らの考察では、Fusobacterium variumが大腸粘膜に侵入することで、粘膜固有層などに豊富に存在する樹状細胞を活性化し、T細胞の分化誘導や活性化を経て免疫応答を誘導することを考察しています。樹状細胞の働きが中心となって、炎症が惹起されるシナリオです。
実際に、この仮設に基づいてF. variumを標的とした抗菌剤カクテルの投与を検討しています。200名を超える潰瘍性大腸炎患者に対して抗菌剤カクテルの効果を調査する二重盲検法を行った結果、プラセボ群と比較して抗菌剤カクテル服用群について、病変の改善や寛解が確認されています。樹状細胞を中心に免疫応答を考えることで、炎症性腸疾患を始めとした腸の不調への調査が、現在超進められています。
腸管は、高密度な神経系、免疫系、細菌叢の生態系が育まれる体内と体外のフロンティアです。登場人物が多いからこそ、話はより複雑になります。しかし、多くの研究が、1つ1つの登場人物の関係を明らかにすることで、連関の全体像が見える様になってきました。
この分野を調べていると、科学者が探偵となった推理小説を見ているような気分になります。とても面白いです。
腸内での疾患において、炎症に関する理解は必須です。今後も、最新の研究を元に、腸内環境と免疫系の関係に迫っていきます。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
*従来型樹状細胞と形質細胞様樹状細胞の参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/36/3/36_135/_article/-char/ja
小井戸 薫雄, 伊藤 善翔, 闞 鑫, 尾藤 通世, 堀内 三吉, 内山 幹, 大草 敏史, 腸内細菌と樹状細胞, 腸内細菌学雑誌, 2022, 36 巻, 3 号, p. 135-141.