現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
今回は、日本人の腸内環境の普通とはどのような状態か、という問いに答える論文を紹介します。
様々な論文で、疾患と腸内細菌の関連性は指摘されています。疾患という人体における異常を考える上で、健常な人体における通常をしっておくことは重要です。今回紹介する研究は5996名のサンプルを用いて、様々なグループに各腸内環境を層別化して解析しています。
どのようにして人々のデータを分類し、どのような傾向がみられたのか。早速研究内容の紹介をしていきます!
この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
今回の研究は、"自宅でできる腸内フローラ検査サービス、Mykinso"コホート10,063名のデータから、疾患やBMIデータの有無などの条件を元にスクリーニングを行い、最終的に健康な5996名の腸内環境を解析していきます。
各個人に関して、腸内細菌叢の他に、年齢、BMI、アルコール摂取、喫煙に関連するデータが保存されています。この研究では、5996名のコホート(集団)を年齢とBMIによって、9通りのグループに層別化(分割)し、解析を行っていきます。年齢によって、20歳以上40歳未満のYoung、40歳以上65歳未満のMiddle、65歳以上のOldに分割します。BMIによって、18.5未満のLean、18.5以上25未満のNormal、25以上のObeseに分割します。
腸内細菌叢の解析としては、Shannon-indexによるα多様性の評価、Bray-Curtis距離によるβ多様性の評価、腸内細菌の系統組成解析を行っています。
Shannon-indexによるα多様性は、参加者個人の腸内細菌叢の多様性を評価し、種の数が多く均等な相対存在量の場合にサンプル内の多様性が高いとします。
一方のBray-Curtis距離によるβ多様性は、各グループにおける、つまり参加者間におけるサンプルごとの多様性を評価し、サンプルに含まれる細菌各種の相対存在量の差が大きいほど、多様性が高いとします。
結論から述べると、年齢と多様性の比較をすると、年齢が高くなるとα多様性とβ多様性の双方が高くなるということでした。
まずは、年齢ごとにα多様性、つまりサンプル内の多様性を調査しました。すると、YoungやMiddleグループと比較して、Oldグループにおける多様性が高いという結果となりました。また、Middleグループの多様性はYoungグループと比較して高いという結果となりました。
YoungグループとMiddleグループについてBMIごとに比べてみると、NormalグループについてObeseグループと比較して多様性が高い結果となりました。OldグループについてBMIで整理すると、NormalグループとObeseグループの間、LeanグループとObeseグループにα多様性の差は認められず、LeanグループとNormalグループの比較でNormalの多様性が高いという結果となりました。
β多様性、つまりグループ内の腸内細菌叢に関する多様性としては、OldグループについてMiddleグループやYoungグループと比較して多様性が高いという結果となりました。
続いて、細菌叢の系統に関する解析です。結果としては、Bacteroidetes門やFirmicutes門などの存在量が、年齢間で有意に異なっていました。また、年齢が高くなるごとに、Firmicutes/Bacteroidetes比が大きくなることが確認されました。また、BMIによる解析では、YoungとMiddleグループについてのFirmicutes/Bacteroidetes比が、LeanやNormalグループよりObeseグループにて小さいことが分かりました。
属レベルでの解析では、日本人の腸内にはBacteroides属菌がいずれのサブグループにおいても優占種であることが分かりました。各グループ間で腸内細菌の相対存在量を比較しても、大きな違いは認められませんでした。また、MiddleグループにおけるBidifobacterium(乳酸菌)の相対存在量はObeseグループにおいて、NormalとLeanと比較して小さいことが分かりました。
最後に、細菌の相対存在量間の相関解析からネットワーク図を作成すると、BMIや年齢ごとに異なるネットワークが形成されていることが分かりました。腸内細菌の相対存在量については、各グループで大きな違いはみられませんでしたが、ネットワーク図を見ると腸内細菌叢が各グループにユニークであることが分かりました。
普通の定義は難しいです。今回の研究では、年齢やBMIによって日本人をグルーピングし、それぞれのグループの普通を大規模なヒトデータから定義しています。加齢に伴い腸内細菌叢の多様性が増大することや、Firmicutes/Bacteroidetes比が大きくなるという傾向も示されました。この研究が基盤となり、日本における腸内細菌研究が更に発展することを願います!
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
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Naofumi YOSHIDA, Satoshi WATANABE, Hiroyuki YAMASAKI, Hajime SAKUMA, Aya K. TAKEDA, Tomoya YAMASHITA, Ken-ichi HIRATA, Average gut flora in healthy Japanese subjects stratified by age and body mass index, Bioscience of Microbiota, Food and Health, 2022, 41 巻, 2 号, p. 45-53.