現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
本日紹介する研究では、大麦麦芽成分の腸内細菌叢、短鎖脂肪酸の関係に着目しています。大麦麦芽は、食物繊維や炭水化物、ビタミン類など栄養を沢山含んでいます。大麦麦芽に含まれる炭水化物とアミノ酸が、メイラード反応と呼ばれる反応によりメラノイジンという化合物群になるのですが、これと腸内細菌叢の関係に注目したのが本研究です。
メイラード反応は何かから、研究の内容についてしっかりと紹介します!
この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
まずは、今回の研究で肝となるメイラード反応とメラノイジンについて。
メイラード反応とは、炭水化物(正確には還元糖)とアミノ酸の間で起こる化学反応で、持続的な加熱によって進行します。メイラードとは、20世紀フランスの化学者マヤールの名前から取っていて、英語読みするとメイラードとなります。
メイラード反応によって得られる褐色の物質群がメラノイジンです。物質群とあえて呼んだのは、メラノイジン自体は特定の化合物を指す言葉ではないからです。基本的な性質として、褐色、不均質、不溶性で高分子および低分子性の、メイラード反応から得られる物質をメラノイジンとしています。曖昧ですが、名前を与えないと議論できないので、便宜的な定義と言えるでしょう。
メイラード反応自体は、実はとっても身近です。皆さんも、メイラード反応を毎朝巧みに操っているかもしれません。トースターでパンを焼く。ここでも、メイラード反応は進んでいます。パンの褐色はメラノイジンによるものであり、いい匂いはメイラード反応の進行過程で生じた揮発性成分が原因です。
かなり身近なメイラード反応ですが、実は複雑な反応故に多くの謎が残っています。この、メイラード反応を中心に議論する日本メイラード学会という集まりもあるくらいです。
http://www.maillard.umin.jp/about.html
それでは、メイラード反応により生じるメラノイジンが与える、腸内細菌叢への影響にフォーカスしていきます。
ここでは、メラノイジンを含まない大麦麦芽とメラノイジンを含む大麦麦芽を混合することによって、メラノイジン含有量が異なる食餌を作ります。この食餌をマウスに食べさせることで腸内細菌叢への影響や短鎖脂肪酸の含有量を調べていきます。
短鎖脂肪酸はガスクロマトグラフィーによって定量し、酢酸、プロピオン酸、酪酸の量を測定します。糞便の採取は、0、1、2、3、7、14、21日目に採取して、腸内細菌叢の解析や短鎖脂肪酸の測定を行っていきます。
短鎖脂肪酸の測定結果では、メラノイジン豊富な大麦麦芽を食べることで、酢酸含有量および合計の短鎖脂肪酸量が維持されていることがわかりました。
非計量多次元尺度構成法によって、各グループのマウスの腸内細菌叢をプロファイリングした結果、0日目には差がみられなかったマウスの腸内細菌叢も、21日目には有意に変化することがわかりました。
増加した細菌としては、Lactobacillus属やBifidobacterium属菌の乳酸菌を始め、Parasutterella属やAkkermansia属菌がいました。一方の減った細菌としては、Dorea属、Oscillibacter属、Alisitpes属菌が含まれました。
特に、Bifidobacterium属やAkkermansia属菌は、メラノイジンが最も豊富に含まれる食餌を摂取したマウスにおいて、有意に増加していることが確認されました。
加熱してメイラード反応をおこした大麦麦芽が、プレバイオティクスとしての効能があるということを示唆しております。
(大麦)麦芽というと、ビール好きな私としては麦酒を思い浮かべてしまいますが、料理やその他の飲料にも使用されています。麦芽を使用したお菓子作りが、腸活にも繋がることをこの研究では示していますね。
以上、麦芽に含まれるメラノイジンと腸内細菌叢の関係についてお届けしました。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
Aljahdali, N.; Gadonna-Widehem, P.; Anton, P.M.; Carbonero, F. Gut Microbiota Modulation by Dietary Barley Malt Melanoidins. Nutrients 2020, 12, 241. https://doi.org/10.3390/nu12010241
https://www.mdpi.com/2072-6643/12/1/241/htm